レデラー 日本での新展開を前に~ジュネーブウォッチデイズ・レポート &ワークショップ再訪とショートトーク
By : CC Fan2020年のカムバック以来、追い続けている独立時計師ベルナルド・レデラー。
時の技巧展でも「チラ見せ」されていましたが、ISHIDA(ベスト販売)が正式な販売リテーラーとして取り扱いを開始、今週(9月14日の週)に既に受注済みの時計の納品のため、レデラー夫妻が来日することが決定しています。
もちろんWMOは取材予定です。
これがあるからジュネーブウォッチデイズは行かなくていいか…と思っていたのですが、急転直下で行くことになり、さらにいろいろあって水曜日まで滞在を伸ばしてヌーシャテルにも行くことに、ワークショップ再訪もしたのでレポートします。
まず、ジュネーブウォッチデイズから。
ホテルの部屋に設けられた席は大きなテーブル3席+撮影用の1人掛け1席で、テーブルは常に埋まるような盛況でしたが、その状態でもすべての席にCIC44、CIC39のノーマルバージョンと逆転バージョンのInVentoそれぞれの「動作するサンプル機」が複数本備えられている、という圧倒的な生産能力を示していました。

記念品のコーヒー豆は何?と伺ったところ来年発表予定のベルナルド・レデラー時計師40周年記念作品の「ティザー」とのことで、このコーヒー豆の形が新しい脱進機?のヒントになっている…と言うなぞかけです。

謎ですね…

時の技巧展では針止めされていたCIC39のInVentoも動作するものが!
CICの「同じ速度の逆回転が得られる」という特性を活かすことで、ほとんど追加パーツなし、回転の取り出し位置の変更だけでアップサイドダウン(逆立ち)構造を実現しています。

ケースバックには秒針が、これはCICシリーズが全て通過しているクロノメーター検定のためには秒単位での表示機能が求められるためです。
今回、改めて回転方向を考えるとInVentoの秒針は時分針と逆側から取り出していることになるため、負荷の均一化には有利かもしれません(ルモントワールで補償される気もしますが…)。

本来のケースバック側が文字盤側になっていますが、ケースバック側がドーム状なので、むしろこっちの方が普通の時計っぽい?とも言えそうです。

CIC44は「トリプル サーティファイド オブザバトリークロノメーター」で終わった、とおもったら真のラスト8本だという新作、「Einstein problem」が、1990年代から数学上の未解決問題だった同名の問題が2023年に解決したことから着想を得た文字盤です。

一見すると乱雑なパターンに過ぎないですが、よく見るとすべて同じ形の「タイル」が充填されたパターンであり、なおかつ周期的になっていない非周期的な特性を持っていることが分かります。
アマチュア数学者のデイビット・スミスが発見した充填可能な条件が一般化された「バット」と呼ばれるパターンをアレンジし、センターのサークル内に充填しています。
この発見(周期性を持たない無限充填可能な形状)は例えば六角形ベースのハニカム複合材より効率の良い補強構造を作ることができる可能性が示されています。
見た目もユニークですし…

CIC44のムーブメント、トリプルサーティファイドと同じ、ルモブリッジが小さくて地板にシリアルが大きく記載できるタイプです。
さて、ジュネーブウォッチデイズは日曜日まで、日曜日のフライトで帰国予定でしたが色々あって水曜日のフライトに変更、ヌーシャテルにも行くことに決めました。
それを受けて、ワークショップを再訪させてもらえないか、と交渉しました。

というわけで?、改めてMHM社に訪問。
前回訪問の時に納入相談をしていた5軸加工機も納入されて安定したそう。

5軸加工機、比較的複雑な加工、巻き芯の穴開け等を行う、とのこと。

こちらは3軸加工機、どの加工機にも材料をストックして供給するフィーダーが備えられており、一度セットしたら異常発生時以外は人の手を介することなく加工が進められるようにされています。
向かって右側がフィーダーで、回転するテーブルに治具に取り付けられた材料が並んでいます。

取り出された治具はエアーで固定させる専用のテーブルにセットされ、加工後フィーダーに戻されます、1枚当たり数時間とのことで、一度セットしたらトラブルがない限り1日から数日は「動かしっぱなし」にして部品が作れることになります。
これはサプライヤーとしてのMHMの能力なので、全てがレデラーに使われるわけではないですが、このような現代的な生産能力の裏付けがあってこその時計作りと私は思います。

ワイヤ放電加工機、こちらはフィーダーではなく大きなテーブルに複数個をセットして一気に加工します。
高さ方向を切削、外形を放電で行う方法でそれぞれの強みを活かして安定した生産を行うそうです。
この他、軸物を作るための旋盤なども…

こちらは手仕上げを行っているセクション。

プロトタイプ、クイックな修正を行う手動工作機械の部屋。
コンパクトながら必要なものが揃っている、という印象です。

諸事情で時間があまり取れなかったので「ショートトーク」という形でCICについての理解を共有します。
「ナチュラル脱進機」と呼ばれる両方向からダイレクトインパルスを与える方式はレデラーに限らずいくつかのブランドが取り組んでいますが、それらとの違いは何か?というテーマです。
後ほどパワポにまとめるかもしれませんがまずは文章で。

ナチュラル脱進機を取りまとめたブレゲの時代(18世紀)には物理学も現在ほどは未発達であり、見逃されていた問題がありました。
少なくとも20世紀の人間であるダニエルズはその問題を認識して「物理学に従って」改善を試みており、その結果が両方向独立駆動脱進機でした。
ここで重要なのは「両方向」よりも「独立」ということ、すなわち2つの独立した輪列でそれぞれのガンギを駆動し、テンワとの回転方向が一致する時だけインパルスを与える、というアプローチです。
レデラーはこれがダニエルズが行った最も重要な改善策であり、CICも基本はダニエルズのアプローチにいくつかの「安全対策」を追加した構成をとっています。
他の方法はダニエルズのアプローチと違い、片方のガンギに入力された回転を1:1の反転車を使って逆方向の回転を作っています、これは時計というシステムで最も速く回転し、なおかつ加減速が求められるため、できる限り軽量かつ低慣性にしなければいけないガンギに「余計なもの」を追加して重くし、慣性も増やしていることになります。

これは今となっては少し古い図になってしまうのですが、CICはテンワとガンギの回転方向が一致して駆動するときにガンギを大きく動かし、駆動せず安全のために動かすときは止め石を乗り越える程度の量しか動かしません、これにより回転エネルギーの大部分を直接駆動でテンワに与えることができます。
このガンギの動かす量を変えるというのはレデラーだけではなく、AP脱進機やセイコーのデュアルインパルス脱進機も行っているアプローチです。
元となる回転が一つしかないAP脱進機でもこの方式で捨てる量を最少にし、セイコーは逆回転を間接駆動経由で回収しています。
このように、ガンギ一つでも回収できるエネルギー量は増やせるのに、「両方向」のために反転車をつけてまで逆方向の駆動を作る必要はあるのか?だったら直接独立した輪列を2つ設ければいいのではないか?という考えが浮かびます。
より単純化すると反転車で逆方向の回転を作るというのは単一ガンギの1のエネルギーが1回与えられるのを0.5のエネルギー2回に分けているだけ、だったらAPやセイコーの様な単一ガンギの方が脱進機自体も軽量化できるから良い、とも言えるかもしれません。
この「逆方向を反転車で作る」はブレゲの原案も同じだったようで、ダニエルズは反転車の慣性が問題だと考えて両方向独立駆動脱進機を作りました。
これを「物理学に従った」改善だとレデラーは呼んでいます。
逆に、素材(主にシリコン)を使って軽量化したとしても、根本の設計がそのままであれば問題は小さくなっても残っている、という事になります。
改めてレデラーと話してこの内容が確認でき、「推測」も正しかった、ということが確認できました。
上記のパワポを作ってから時間が経ってしまっており、現在は更にアンクルなど進化しているようなので、現在情報のアップデートをお願いしており、また改めてレポートします!
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